2011年12月23日

秩父・城峯神社の「お猫さま」(埼玉県)


将門伝説の城峯山
 将門伝説で知られる秩父の城峯山(1,037.7m、埼玉県秩父市、秩父郡皆野町、児玉郡神川町の境)は、車道が山頂近くの城峯神社まで通じているため労せずに登ることができる。巨大な電波塔が頂上にあるのも気に入らず、登りたい山からはずれてきた。しかし、山頂直下の城峯神社に狛猫がおられるということであれば話は別。「お猫さま」と呼ばれる訳ありの石像を見たい衝動にかられた。

 秩父鉄道皆野駅から町営バスで日野沢コース登山口の西門平まで入る。鐘掛城(1,003m)まで植林地を黙々と登る。稜線の風は冷たく、霜柱を踏み崩して急坂を石間峠へ急ぐ。車道が横断していて、左へ行くと城峯神社へ至る。少しの登り返しで頂上に立つ。バス停から約1時間半で着いてしまう。一等三角点だけに展望はよい。やはり目立つのはギザギザの両神山。

天狗岩から城峯山
目立たぬが特別の存在
 城峯神社へは反対側の尾根を下る。こちらは日当たりのよい雑木林となっている。神社の奥社から天狗岩を往復してから神社へ。伝説の「将門隠れ岩」はうっかりパスしてしまった。鳥居前は平坦な広場で、左手に神楽殿やキャンプ場がある。神社の狛犬は強面の三峰系狼だ。狛犬のそばにあるものと思っていた猫の石像だが、付近を探しても見当たらず少しとまどう。社殿に戻ってみると、その左手前に目立たぬように鎮座していた。思ったより小さく紫の前垂れをかけており、特別な存在のようである。

城峯神社拝殿
これが「お猫さま」
両神山と秩父の山並み(境内広場から)
狛猫ではなく「お猫さま」
 この置き場所が何となくしっくりこない、しかし特別扱いのような猫の石像のルーツとは? この猫、もとは城峯神社の別当寺だった長伝寺(旧吉田村石間)にいらっしゃった。長伝寺には平将門の守り本尊の十一面観音が安置されていて、その眷属である「お猫さま」を貸し出していたという(養蚕地帯なのでやはり鼠除けか)。


 長伝寺の十一面観音は明治元年に光明寺(旧吉田村沢戸)の観音堂に移された。廃寺となったためなのか、明治2(1869)年には「お猫さま」も城峯神社に安置された。それが今に伝わる狛猫だということになる。どおりで、ほかの狛犬と比べて小ぶりだ。貸し出すために人が担ぎ上げて移動できる程度の重量にしたのだろう。当初から猫の石像はひとつだったから、神社にあるからといって狛猫ではない。往時のように「お猫さま」と呼ぶべきなのだ。

 交通の便の悪さから足を延ばせなかったが、秩父困民党の蜂起の舞台となった山麓を訪ねるのも興味深い。