2011年10月11日

花渕山の雄沼では猫を雨乞いに使った

鳴子温泉郷の名山

鳴子温泉のシンボル的存在である花渕山(984.9m=宮城県大崎市)は、紅葉の名所・鳴子峡の背景の山としておなじみだ。かつてインカレや全日本スキー選手権も行われたスキー場があった(1950年、国設花渕山スキー場としてオープン。鳴子スキー&リゾートを経て経営不振で2002年閉鎖)。スキーブームが続いていた20年ほど前、花立峠から山スキーで縦走して、このスキー場を滑り下りたことがある。下手な山スキーヤーには手強い斜面だった。

当時は、頂上近くの標高820mにある雄沼について、地形図に記されているにも関わらず、気にとめることもなかった。ずっと後になって『鳴子町史 上巻』をめくってみて驚かされた。雨乞いのため猫を生きたまま沼に沈めるという因習があったのだという。隣接する加美郡の薬莱山(553.1m)麓の荒沢の滝でも、雨乞いに死んだ猫を投げ入れるということを、たまたま観光パンフレットで知って謎が深まる。この地方で、なぜ雨乞いに猫なのか。

沼や滝壺の水神を怒らせて雨を降らせる手段として、牛の首を投げ入れたり、小便をしたり、いろいろあるのだが、宮城県北地方では猫を利用する雨乞いが二例もあるというのは偶然だろうか。大崎耕土といわれ、ササニシキを生んだ豊かな稲作地域でも、かつては水不足に悩まされることがあったのだろうか。

閉鎖されたスキー場と見事なブナ林

三連休中日の10月9日、閉鎖されて10年近い鳴子スキー場を登り、雄沼を目指す。地元の人は、鬼首スキー場のテレキャビンを利用して鍋倉山から花渕山を往復するのが一般的らしい。「面白うてやがて哀しきスキーかな」と揺れるススキが語りかける。いま全国のスキー場が経営不振にあえぎ、引き受け手がなければ閉鎖に追い込まれている。

ススキが伸び放題のゲレンデ跡

それでも、いったん登山道がスキー場からそれればブナ林が広がっていた。ゴンドラ終点のビッキハウスから尾根左斜面に入ると、さらに見事なブナ林となった。登山道にクマの糞があり、雄沼付近は気が抜けないと警戒する。

見事なブナ林の道

立派な龍神の祠

右手の小尾根に上がると、左眼下に雄沼がブナの樹間から垣間見えた。クマ除けに大きな声を上げると、湖面に吸い込まれるように響いた。沼のほとりには立派な龍神(水神)の祠があった。たび重なる大地震で屋根が落ちたとの情報もあったが、しっかりと修復されていた。数人がかりでないと持ち上げられない重さだ。雨乞いの風習は戦後も続けられたというが、地元の信仰心の厚さが見てとれる。

深閑とした雰囲気の雄沼

立派な龍神様

通信施設のある頂上は展望はなく、そのまま北上して大柴山(1083.2m)から鍋倉山(1094m)まで縦走したくなり、いったん向かいかけた。しかし、鬼首スキー場に下りても、バス便がさだかでなく思いとどまる。予定通り往路を戻り、もういちど雄沼の龍神でしばし憩うことにした。


鳴子温泉を見下ろす。左上のポッコリした山が薬莱山

ゲレンデ跡を下る途中、左手南東方向に加美富士とも呼ばれる薬莱山が端正な姿を見せていた。薬莱山も登るつもりだったが、前日8日は山形県の肘折温泉付近をうろついて時間をつぶしてしまったので中止に。急きょ思いついた大蔵村の猫岳(977m)偵察は思うようにいかなかった。肘折温泉は遠く、しかし懐かしかった。村山葉山〜肘折温泉~念仏ヶ原〜月山〜朝日連峰(天狗角力取山~オツボ峰~大鳥池~以東岳~大朝日岳)〜長井葉山へと10日間の合宿をしたのは37年も前のこと。

鳴子公園付近からの花渕山(右のピーク)
なお、鳴子峡は震災の影響で、渓谷沿いの遊歩道は通行禁止となっていた。紅葉の見頃まで1週間早かったようだ。