2010年6月6日

奥会津・志津倉山の猫啼岩

 志津倉山のカシャ猫伝説

 会津地方は化け猫に関する伝説が多い。志津倉山(1234m)のカシャ猫伝説も、その代表的なものの一つである。

 『その昔、子供のないお爺さんとお婆さんが一匹の猫を飼って可愛がっていました。ある年のお盆にお爺さんが泊まり掛けで芝居を見に行き、お婆さんはその晩、なかなか眠れず、「おらも芝居がみてぃなァー」といって猫の頭を撫でると、猫は隣のへやに行き、「芝居がそんなに見たければ、おらがこれから、その芝居をお見せ申すべ」というと、障子戸に芝居の影が色どりも美しく映し出し、様々な芝居を明け方近くまで見せてくれたのでした。そして「今夜のことは絶対に喋っちゃいけないぜ」というのです。しかし、次の晩お爺さんが芝居の面白かったことを寝物語に語って聞かせると、お婆さんもつい話に乗ったはずみで昨夜の猫の芝居のことを話してしまいました。これを聞いたお爺さんは、「この先どんな化猫にならないとも限らない。末恐ろしいことじゃ」そういうと、翌日さっそく猫をつかまえると箱のなかに入れて、前の川に流してしまいました。すると、不思議なことに、その箱は川下には流れていかず、逆に川上へ流されていきました。そして川上の切り立った岩山に登り、そのまま猫は大辺山(現在の志津倉山)に棲みついてしまいました。
 こうしたことがあってから、この岩山には猫啼岩と呼ばれるようになり、猫は千年の齢を重ねた怪猫(カシャ猫)となって、人もとって食うと伝えられています。』(『みちのく120山』福島キヤノン山の会、歴史春秋出版、1991)
 伝説には次のようなバリエーションもある。
 『昔、志津倉山にばけ猫が住み、大雨、日照り、病をはやらせ、人の亡きがらを食いその命をわがものにして人々を困らせていた。
 これを聞いた弘法大師は志津倉のコシアブラの木で退治し“猫の魔力で天の災いから人を救い病を治す志津倉山の主になれ”とさとされた。それ以来ばけ猫は志津倉山の主になった』(『岳人』555号「志津倉山」、東京新聞出版局、1993)

 なお、大沢右岸にあるスラブの「猫啼岩」は、志津倉山登山道からも望まれる。また、魔除けとしてコシアブラの木を使った「かしゃ猫」はユーモラスな猫の木彫りこけしだ。


 平成22年の山開きに参加

 6月6日(日)の平成22年志津倉山山開きに出かけた。ふだんは騒々しい山を避けているのに山開きという行事になぜ参加したのか。一つは会津宮下駅前から無料のシャトルバスが運行されるというメリットがあること、また地元参加者が多いので伝説やカシャ猫の情報がより得られやすいだろうという狙いがあった。

 前日は駅員の許可を得て会津宮下駅前でテント泊。登山口は駐車スペースが少ないため、車で来る人も多くはバスに乗り換える。参加者は2台のバスに分乗し、7時35分出発。登山口までは30分で到着した。すでに車で来た人たちでいっぱいだった。受付テントで手続き後、祈願祭を行って出発する。8時25分発。

 この上ない好天に恵まれたが、少し蒸し暑い。二子岩コースは残雪があるので回避してほしいということで、大沢コースへ。二子岩コース上部から猫啼岩を正面から見たかったのに残念。

 二子岩コース分岐付近からは、おなじみの雨乞岩のスラブが一望できる。確かに残雪が今年は多いようだ。大沢コースの途中、左手の林間に見えるスラブは猫啼岩の下部ではなかろうかと直感する。5分も登れば基部にたどり着けそうで、猫啼岩を見上げてみたいものだ。しかし、ここでも自粛。

残雪で覆われた雨乞岩のスラブ

 大沢を渡る最後の水場から急登となるので一本。ここまで約50分。シャクナゲ坂の鎖場は大渋滞となってなかなか進まない。これだから、やれやれ…。このまま猫啼岩を見ることもなく頂上へ行ってしまうのかと不安もよぎる。が、一本松の直下から振り返ると猫啼岩の全貌が見渡せた。これまで見た猫啼岩の写真は、二子岩コースから撮影された正面からのものばかりだった。後ろを歩く地元参加のかた2人に、「あれ、猫啼岩ですよね」と一応確かめると、「いや、地元ですが全然わかりません」との答え。そんなものか。よりスケールの大きい屏風岩の方が有名らしい。

シャクナゲ坂から猫啼岩

 一本松を過ぎて急登から解放され、ブナ林の緩やかな尾根となって志津倉山頂上へ。10時40分着。すでに先着7、80人くらいはいるだろうか。三岩岳方面の豊富な残雪が白くまばゆい。ランチタイムも一段落すると、恒例の抽選会となった。何年か前にはカシャ猫をプリントしたTシャツが景品となって、その写真を見たことがあった。今年は、と期待したが出品されなかった。

志津倉山から三岩岳・窓明山方面

 11時25分、下山にかかる。経由する細ヒドコースは見事なブナ林に覆われている。急坂を注意して下り、糸滝を過ぎると右側が切れた階段を下る。安全のため係の人が見守っている。ブナ平では巨木のブナが多くて素晴らしい。この季節は瑞々しい。

細ヒドコースのブナ林

 12時27分、登山口に戻り、三島町観光協会のテントで山菜汁をいただく。観光協会の方に聞けば、木彫りのカシャ猫は現在販売されていないという。制作者(間方集落の長郷さん)が高齢となり作っていないし、オリジナル作品なので後継者もいないようだ。カシャ猫には御守りをいれてあり、化け猫という性格上、観光みやげの目玉にはできないのだろうか。ウーン、残念無念。15年以上も前から手に入れたかったのに。やはり、「猫」の逃げ足は早いのだ。

 帰りのシャトルバスは14時発。参加者に配られた温泉割引券で、駅から徒歩10分の宮下温泉「ふるさと荘」で汗を流す(420円→270円)。もはや幻となったカシャ猫探しにまた来なくてはならないという重い課題が加わった。