2002年7月28日

日本で一番「猫本」を書いた永野忠一さんはスゴイ

 猫の民俗学に興味を持ってまず手にすべき本と言えば、『猫の民俗学』(大木卓著、田畑書店)そして『猫の歴史と奇話』(平岩米吉著、築地書館)あたりだろうか。

 『猫の民俗学』は絶版で、いまではなかなか手に入らない。私は神田神保町を探し回ってやっと見つけた。『猫の歴史と奇話』は箱入り限定版もあるほどのロングセラーとなっている。最近、娘さんの平岩由伎子さんが『猫になった山猫』(築地書館)を書き、親子二代での猫研究本出版となった。

 猫民俗研究で忘れていけないのは、知る人ぞ知る猫学者・永野忠一さんだ。もちろん私はお会いしたこともないが、白寿を迎えてなおご健在でいらっしゃるらしい。自費出版ながら猫本を10冊以上もものしているから、日本人で一番「猫本」を書いた人だと思う。

 主なものを挙げると、『黒猫物語』(1950)、『野ら猫を飼う記』(1951)、『猫の生きざま』(1960)、『猫その名と民俗』(1965、1972改訂)、『諺から観た猫の民俗』(1967)、『エジプト猫、その行方』(1969)、『怪猫思想の系譜』(1969)、『信仰と猫の習俗』(1971)、『猫の幻想と俗信』(1978)、『日中を繋ぐ唐猫』(1981)、『猫と日本人』(1982)、『猫と日本人 続』(1986)、『猫と故郷の言葉』(1987)、『猫と源氏物語』(1997)など。いったい何がここまで永野さんを猫にかきたてたのだろうか。

 大阪の府立高校で教鞭をとっていた永野さんが、本格的に猫の民俗に取り組み始めたのは50代半ば頃だから、スタートは遅かったといっていい。しかし、それからの研究に打ち込むエネルギーがすごい。

 「余暇の執筆といい条、猫猫猫で塗りつぶされた日々であった。溜りたまって十幾冊になった」(『猫その名と民俗』1965初版)、「猫と取り組んで早や十七八年にもなる。それだのに問題は片付かない。猫に取りつかれたに相違ない。…(中略)…気ばかりあせるが、疑問はわたしの執筆を容易に許さない。猫よ! このわたしをどこまで苦しめようとするのか」(『猫その名と民俗』1972「改版の言」)と、ここだけ読んでも猫への思い入れは半端でないのがわかる。

 永野さんの著書の中で、とくに『猫の幻想と俗信』(1978)の猫山についての考察は、大変示唆に富む興味深いものであった。消えゆく猫山の地名と意味するものを発掘して記録せよ、と私自身が励まされた思いがした。

 残念ながら現在、これらの本の何冊かに目を通したいなら、一般的には東京都内なら国立国会図書館か都立中央図書館等で閲覧するしか方法はない。どこか志のある出版社が『永野忠一・猫民俗全集』を世に出してくれないかなあ、などと思う猫もダラリの暑い夏であります。