2010年7月19日

戸隠山の「ねこまたの岩屋」(埼玉県鳩山町)

「ねこまたの岩屋」

埼玉県比企郡鳩山村須江 戸隠山
戸隠山に岩屋がある。昔、古猫がこの岩屋に沢山集まり、笛を吹いたり、仕舞を舞ったりしたという。             『川越地方郷土研究』四冊

 ねこまた伝説の全文はこれだけにすぎない。比企郡鳩山村は現鳩山町。この一帯は外秩父の丘陵地帯で周辺の開発が進み、地形図を見ても戸隠山という山は見当たらない。須江という地名は残っているが、北側に98.3mの標高点があり周辺の最高地点だ。実際に伝説の地を歩いてみることにした。

埼玉県唯一のねこまた伝説の地

 7月19日 朝から強烈な太陽が照りつける。きょうは沿線地の探索なので気楽だ。東上線武蔵嵐山駅でおりて笛吹峠へ向けて歩いていく。途中、源義賢の墓地や源義仲、源義高生誕地、縁切り橋(東征中の坂上田村麻呂が、心配して訪ねてきた奥方を叱りつけ京に返した)、将軍塚など見所がある。また、笛吹峠までの一帯は蝶の里としてオオムラサキの保護に力を入れている。峠までのなだらかな登りで涼しげなクヌギ林で心地よい。この道はかつての旧鎌倉街道で幾多の武士団らが往き来したところだという交通の要所であった。


 約50分で峠に着く。ハイカーも訪れていて休憩所もあり、一息入れる。「クマ出没注意」の看板があり、こんな里山にも出没するのかと驚く。「平成20年5月27日に熊の目撃情報あり」と記されていた。峠から西に幅広の道が続いている。東に行けば物見山へと続くハイキングコースだ。98.3m標高点を通る西の道に入る。北が嵐山町、南は鳩山町の境界道となっている。標高点付近から南側に入る道があり、そちらに行ってみる。明るく開けた伐採跡に出る。南側は谷を隔てて森となって人家は見えず、里山とは思えない山中にいる感じ。このあたりが戸隠山というのだろうか。雑木林とヤブで自由に歩き回ることはできない。
涼しげなクヌギ林のトンネルを笛吹峠へ
笛吹峠

里山ながら「熊出没注意」の看板

ねこまたの岩屋はこの森に?
 境界線の道に戻り、熊除けに声を上げる。すると、子供の声が返ってきた。車道に出る手前に人家があり、二階から子供がこちらを見ていた。別荘ではなさそうで、寂しいところに住んでいるものだ。車道を下っていくと右手に少し大きい貯水池がある。ほとりに地蔵様が鎮座している。池の南側には社があり、のぞくと戸隠大神と九頭龍大神の文字が見えた。農耕と水を祀る戸隠信仰あることから須江の山を戸隠山と呼んだということは容易に想像できる。少し下った集落から再び山に入る道がある。車も入れる道で途中人家があり、戸隠山の件について聞いてみたが、比較的新しい住人だからなのか知らないということだった。

池端に祀られた戸隠大神と九頭竜大神

農業用貯水池?
 笛吹峠からS字状に戸隠山と目される森を辿って須江集落の南端に回り込む。ここには長命寺という寺があり、何か手がかりになる話をキックことができるのかもと期待していたが、無住の寺となっていた。大きな門構えの農家の前に来た。迷ったが暑いさなかにおじゃまするのは気が引けて断念。これではいないのだが。黒石神社、桝井戸遺跡(町指定記念物)と見ながら、須江の集落を離れ、玉川から八高線明覚駅に向かった。途中、玉川工高前の車道で交通事故に遭った動物は猫かと思ったら大きなタヌキだった。この日は最高気温36度まで上がり、調査するには厳しすぎる猛暑であった。

須江集落と戸隠山方面
 この日歩いただけでは具体的な手がかりはなく、土地の古老か町役場に問い合わせる必要がある。しかし、岩屋の場所を特定することは困難であろう。