2003年6月24日

猫の山で「春の女神」に出会ったよ(猫岩〜権現堂山)

 いよいよ今年から猫山探検隊が本格始動。その手始めに猫又伝説の山・権現堂山と、猫がうずくまっているように見えることから名付けられた猫岩を歩いてきた。そして驚きの出会いと発見も……。

 猫感というのか、そもそもこれらの山はずーと昔から気になっていたのであった。毛猛連山の西側前衛にあたる、たかだか1000m前後の山々。20数年前に越後駒ヶ岳に登ったときに見た、低いがうねるような連なりが印象的で、最高峰は唐松山(1079m)という。そのすぐ西隣に「猫岩」(1008m)があり、地形図にも記されていて興味津々だった。さらに尾根は西北西に上権現堂山(997m)、下権現堂山(896m)へと続いている。猫又伝説の存在を知るのは20年も後になってのことだ。

 今回は、手ノ又登山道から上権現堂山分岐を経て、まず猫岩・唐松山を往復し、一気に上権現堂山・下権現堂山も縦走しようというもの。手ノ又登山口には先行者の車が10台ほど駐車しており、地元での人気ぶりが伺える。たいていは唐松山往復だろう。道はよく整備されていて歩きやすい。山は低いが彫りは深く、典型的な越後の山の表情をしている。陽あたりのいい登山道にトカゲがたくさんいて、足下からかさかさと逃げていく。一汗かくと落差30mの不動滝を俯瞰できる滝見台。めざす猫岩と唐松山も見える。目をこらすと確かに猫が頭を唐松山の方に向けて伏せているようだ。なるほど、なるほど。耳もついていると完璧なのだが。名付けた人はよほどの猫好きだったのだろうな。猫岩にも伝説があり、悪さをした猫又が権現堂の山の神の怒りにふれて岩に変えられてしまったのだという。

 稜線から右折して猫岩に向かう。急登に喘いで「いっぷく平」へ。展望が開けて振り向けばボリュウムのある上権現堂山が大きい。間近に迫った猫岩に人が立っているのが見える。猫岩基部に着くと右側を巻く道標もあるが、猫の尻部分から簡単に登ると背中の頂上には「猫岩」の標識が立つ。猫の頭部分の方へ進むとそのまま下りられず、首の部分から右下にトラバースして通過する。猫岩の北側はスッパリと落ち込んでいて見栄えがよい。岩正面は見ようによっては猫の顔に見えないこともない。


猫岩に立つ登山者。背後は上権現堂山

 小ピークまで戻るとヒラリヒラリと見覚えのある蝶が舞っている。ギフチョウだ。でも、なぜ「春の女神」と呼ばれる蝶が、この時期に山頂に上がっているのだろう? 飛んでくるカラスアゲハを追い払う占有行動をしていたのも意外だった。少し下ったところでもう1頭。弱々しく飛び、帽子で払ったら地面にハタリと落ちてしまった。もう寿命だったのか羽は破れかけ、産卵も終わっているので持ち帰ることにする(近々、渋谷の志賀昆虫普及社に行って展翅板など買いそろえよう。志賀普及は昆虫採集・標本用具の老舗で、中学生のとき田舎からはるばるドイツ標本箱を買いにきて以来だから30数年ぶりだな。ニャハハ)。

 上権現堂山の登りから振り返ると猫がいてハッとする(注:もちろんナマ猫のことじゃないヨ)。猫岩の左手に見える唐松山と手前のギフチョウのいたピークとが、うまい具合に「猫の耳」となっているのだ。「猫又伝説の山」から「猫岩」と「猫の耳」か。ちょっと出来すぎているぞ。この一帯は北アの猫又山周辺に次ぐ濃厚な猫山ゾーンと言えそうだ。

 上権現堂山では、またもや地元おじさん達が鍋を囲んでゲップ腹になっている。あんたら化け猫に踊らされてるんじゃないか? 長岡から来たのか、10人くらいの学生グループもいて騒々しい。伝説にまつわるらしい「鬼の穴」という案内標柱にそそられたが、「ここから300メートル下」とあるので今回はあきらめる。

 下権現堂山までは露岩のある気持ち良い尾根歩き。上権現堂山に北西から突き上げる下高滝沢からは、その名の示す大滝のゴーゴーと水を落とす音が響く。うって変わってひっそりとした下権現堂山から戸隠神社へ向けて下山にかかる。弥三郎清水(7・5合目)の手前で、真っ黒い犬連れのおじさんが登ってきた。そういえば、この山の伝説で猟師が連れ歩いたのは真っ黒いカラス猫だった。

 縦走中は何でもなかったのに、8合目までの急坂のせいで足が悲鳴を上げ始めた。下りでつらい思いをするなんてめったになかったのに。50歳にして仕切り直しかな。

 【コースタイム】手ノ又登山口8:40 滝見台9:03 上権現堂山分岐9:40〜45 猫岩10:30〜35 唐松山11:00〜11:05 猫岩11:30 分岐12:15〜25 上権現堂山12:55〜13:05 下権現堂山14:05〜14:20 弥三郎清水14:35 戸隠神社15:18