猫川は岩手県遠野市の早瀬川上流、遠野三山の一つ六角牛山(1294m)付近に発する。
『遠野物語拾遺 176』(角川文庫)には、「青笹村の猫川の主は猫だそうな。洪水の時に、この川の水が高みへ打ち上がって、たいへんな害をすることがあるのは、元来猫は好んで高あがりするものであるからだといわれている。」とある。地形図をみると、現在の猫川は砂防堰堤だらけで氾濫しやすい暴れ川だったことが分かる。源流は柏手のように何本かの急峻な沢から猫川に一気に流れ込む地形となっているのだ。六角牛山は、そんな暴れ川をかかえる山とは思いもつかない優美な山容である。
ところで鉄砲水のことを利根川支流湯檜曽川の流れる地元、群馬県水上町では「猫まくり」と呼ぶ。平成12(2000)年8月6日に起きた湯檜曽川での鉄砲水事故が記憶に新しい。事故当時80〜120センチ水位が上昇し、谷川山麓で合宿キャンプ中だった少年サッカー団を襲った。「猫まくり」は「壁のように押し寄せる水の波頭が、猫の前脚のように曲がる様子から来た言葉だ」(asahi.com 8月7日配信記事)と注目された。猫川の洪水は「猫の高あがり」だが、いずれも異常な出水を猫の動きに例えているのは偶然とはいえ興味深い。
六角牛山へ登る
7月3日 六角牛山は以前から登ってみたいと思っていた。この土日は、まずこの山を片づけ、翌日は北上山地最北端の久慈平岳を登る計画だ。
新花巻に着くと昨夜の豪雨による土砂崩れで釜石線が不通となっていた。振替輸送バスで遠野駅まで行く。六角牛山方面は雲に覆われており、上部は雨かもしれない。六角牛神社でタクシーを下りようと思っていたが、林道終点まで入れるとのこと。終点にはマイクロバス(秋田ナンバー)が止まっており、団体さんが先行しているようだ。
六角牛山登山口 |
六角牛山頂から中沢への尾根 |
中沢登山道下部の気持ちいい道 |
六神石神社分岐から青笹駅までのロードは日差しも出て蒸し暑くなった。振り返ると六角牛山が見渡せるほどに天候回復。きょうは陸中海岸北部の久慈まで行くので、猫川の流れを見に行くことはできない。猫川の源流から六角牛山に登るのも面白そう。沢の記録は見ないので、そのうち登ってみたいものだ。
釜石線は午後に復旧したようだ。予定通り、釜石で山田線に乗り換え、さらに宮古で北リアス線に乗り換えてようやく久慈へ辿り着く。霧で海は見えず。宮古線は豪雨で不通になったらしい。雨上がりの久慈に下り立つ、駅前の養老の瀧で夕食後、市内の道の駅でテント泊。
再び遠野の猫石探査へ
7月4日 ガスが濃く、山は霧雨模様。久慈平岳は中止として八戸に出て、再び遠野に舞い戻ってきた。遠野駅でレンタサイクルを借りて、猫石探査のため笠通林道を目指す。
40分ほどで続石、そして笠通林道入り口を過ぎて小峠へ向けて400mほど登っていく。どうもこちらではなさそうなので、笠通林道入り口に自転車を置いて林道に入ってみる。右手山側斜面の杉林に見当をつけて探すがそれらしき大石はない。いったん下って畑仕事中の爺様に声をかけ、「猫石を知りませんか」と訊ねる。すると下の家を指さし、「そこで聞けば分かる」というようなことを言う。「それは猫石さんですか」と聞くとうなずくので、これはしめたと思う。そのお宅に行って声をかけると、畑からおばちゃんが上がってきた。
笠通林道入り口 |
もう少していねいに探せば見つかるだろうとタカをくくって、もう一度林道に戻る。しかし、かなり上まで行っても見つからずじまい。汗だくになってしまう。あとでネットで調べたら、もう少し奥へ入ったところで、左側に駐車スペースがある地点らしい。今日はここまでとして探査を切り上げる。帰りがけ10年ぶりに続石に立ち寄った。
今回は収穫がなかったわけではないので、遠野駅に向け自転車を漕ぐ気分はまずまずであった。帰宅後、続石をネットで調べたら弁慶の枕石の近くに「猫石」があるということで、写真まで載っていたのに驚く。これはどういうことだろう。つまり、綾織地区に「猫石」は二つあることになる。さらに安部貞任伝説の「猫岩」は笠通山西麓にあるとにらんでいるので、遠野通いはしばらく続けなくてはならなくなった。
遠野市内で目ヤニ猫がお出迎え |