中国・雲南省といえば、京大学士山岳会の大量遭難で有名になった梅里雪山(メイリー・シュエシャン=6,740m)をはじめ、岩壁を張り巡らした玉龍雪山(ユーロン・シュエシャン=5,596m)など魅力的な山々があることで知られる。
25もの少数民族がおり、貴重な動植物の宝庫でもある。なかでもトラやヒョウ、ヤマネコなどネコ科動物の棲息地ゆえに、トラを自分たちの祖先としている一部の少数民族さえいるのは興味深い。
動物が人間になりすまして人を襲うという伝承は中国に多いが、代表的なのが「虎人伝説」だ。これらの伝承を残した漢民族からすれば、雲南は辺境で異端の地であり、トラを祖先とするような少数民族を畏怖し、妖怪視したのではないかと妖怪研究家・多田克巳氏は書いている(季刊「怪」第壱号・「雲南で発見する日本妖怪のルーツ」)。
虎と同様に人を襲う猛獣で、大きな山猫の総称を中国では「狸(り)」と呼び、日本の猫股や化け猫伝説の原型をなしたといわれる。狸(り)は、ネコ科猛獣のいない日本では狸(タヌキ)と同一視されたが、いかんせんタヌキでは妖怪としての迫力に乏しく、猫股や化け猫に変化していったというわけだ。
動物民話の豊富な雲南にも、猫にちなむ山があるはずだと思っていたら、同じく雲南の動物地名に興味を持った今村余志雄氏が、著書『猫談義』の中ですでに調べていた。無量山脈の最高峰で猫頭山(Maotou Shan=3,306m)という猫山の親分みたいな山があるのだ。
中国登山ガイド本の『中国登山指南』(中国・成都地図出版社、1993)に載る地図で見ると、この山は省都・昆明(クンミン)から西南西に約200キロほど離れたところに位置する。「猫の頭」というのがなかなかいい。山名の由来はどういうことなのだろうか。頂上付近に猫の耳のような岩峰でもあるのか、あるいはかつてヤマネコがたくさん棲んでいて、親分ネコの住処だったのか。
いずれにしても、雲南の山と猫に関する自分の情報は前出の本に記された範囲を出ないので、今後調べていくことにしたい。91年にパミールにでかけたあと、次に登ってみたい海外の山として中国、特に四川や雲南に惹かれたのは、猫山の総本山が呼んでいたからなのかもしれない。