1998年9月27日

子トラは現代の猫股になり得るか

 9月18日に起きた信貴生駒スカイライン(奈良県平野町)での「トラ」騒ぎは、その後の捜索でハクビシンなど4種類が捕獲されただけで、肝心の子トラは見つかっていないという。子トラだから生き延びるには厳しいだろうが、たくましい生命力で命をつながないともかぎらない。

 万が一に備えて地元の幼稚園や小、中学校では、町教委の指導で集団登校しているそうだ。これが昔だったら、子トラがトラとなり、いつのまにか大猫や猫股に化けて、挙げ句の果てに山で人を襲ったらしいと肥大した伝聞となっていくのだろうか。

 猫股の正体として同じようなケースで推論した研究家がいたのを思い出す。皇室や幕府への献上品、あるいは見世物として渡来したトラやヒョウの類が山野に逃亡し、まれには人を襲ったことがあったのではないか、というのだ(実吉達郎「ねこの本」1972)。

 そうした事実が記録として残っていない以上想像の域を出ないものの、自分自身は全くないとも言えない話だと思っている。何でもありの現代では、ペットとして飼われていたニシキヘビやイグアナなどでさえ河川敷や住宅地で見つかるくらいだから、密輸されて逃げたベンガルヤマネコだって山野で遭遇するかもしれない。

 早くも奈良の「トラ」騒ぎもメディアから忘れられた感があるが、今回の事件はしばらく記憶にとどめておくことにしよう。何年かたって、「夜だからよく見えなかったけどスカイラインを大型の動物が横切った」なんて目撃者が現れて、またぞろ大騒ぎするかもしれないから。

 猫股伝説が現代に復活するチャンスでもあると、密かに山猫ワンダラーは期待しているのです。